様々なてんかん

小児のてんかん

1. てんかんの好発年齢に関して

てんかん発症率のピークは乳幼児期、および老人期にあり、グラフはU 字型を示します。(図1)高齢者のてんかんで圧倒的に多いのが脳血管障害の後遺症に伴うものですが、乳幼児期早期の病因としては、遺伝的な素因などの先天異常、周産期障害、などが挙げられ、乳幼児期と高齢者でてんかんの病因が異なります。このため、診断や治療には小児特有の要因を考慮する必要があります。

2. 小児てんかんの病因を特定する

てんかん発作の直接的な病因を下記の6 つに分類します。(図2)小児の場合、成人と比較して、てんかんの病因が多様であるため、より詳しい検査が重要となります。治療方針を決める上でも重要で、例えば構造的なものが病因であれば、早めに外科治療の可能性を検討します。

3. 特定のてんかん症候群に当てはまるかどうかを判断する

てんかん診療においては、 同じような症状、 発症年齢、 検査結果、 を示す患者さんの一群を特定の症候群に分類しています。 小児では大きく分けて、 ①特発性全般てんかん ・ 自然終息性焦点てんかん(治療への反応性も良好で、 一部の症候群では自然終息も期待できる)、②発達性てんかん脳症(難治性で璽度の認知・行動障害を引き起こす)、の2つのタイプがあります。(図3)とりわけ小児患者においては、 適切な治療方法や予後の予測に 重要な意味を持つため、 出来る限り特定の症候群に該当しないかどうかを調べておく必要があります。

4. 小児てんかんの治療方針

小児てんかんの特徴として、 自然に終息するてんかんの存在があります。 すなわち発作が2-3年間抑制された 場合、 抗てんかん薬の中止を目指せるケ ースがあります。 一方で発達性てんかん脳症のように非常に難治なてん かんも存在します。 病因診断、 症候群診断を正確に行い、 外科治療も含め効呆のある治療法を適切に選択し、 不要な治療を避けることが重要です。

高齢者てんかん

てんかんは子どもと高齢者に多い病気です。その理由として、高齢者のてんかんには2つ、「過去に発症したてんかんが続いている場合」と、「高齢者になって新たに発病した場合 “高齢発症てんかん”」があるからです。このペー ジでは特に断りのない限り 「高齢者のてんかん」とは高齢(65歳以上)で発症したてんかんについて説明しています。

1.高齢者てんかんの原因と特徴

高齢者てんかんの原因は様々で、原因ごとに発作型の違いがあります。症候性てんかんが全体の約2/3、原因不明の特発性てんかんは約1/3で、特発性てんかんの割合が高い小児てんかんとは対照的です。
症候性てんかんは脳に何らかの障害が起こったり、脳の一部に傷がついたりすることで起こるてんかんです。 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)によるものが最多です。てんかんの部位については側頭葉てんかんが多く(約7割)、ついで前頭葉てんかん(約1割)の順になります。

症候性てんかんの発作型では単純部分発作(意識がはっきりしている)や複雑部分発作(意識障害を伴う)が多く、とりわけ1日に何回も複雑部分発作を繰り返すパターンが多いと言われています。なお少数ながら前頭葉てんかんや特発性全般てんかんから非けいれん性の重積発作を来すことがあります。また部分発作でも全身けいれんを伴う二次性全般化発作を起こすこともあります。
また認知症と間違われやすいのも高者てんかんの特徴です。けいれんがなく、意識障害を起こすことが多い複雑部分発作がこれに該当します。具体的には発作後に朦朧状態が数日間続き、それが頻繁になると、てんかん発作であることに気付かれにくく、場合によっては認知症と誤診される可能性もあります。

2. 高齢者てんかんの合併症

高齢者てんかんは症候性てんかんが多く、その原因として脳卒中(脳梗塞、脳出血)が最多ですが、他に多い原因として神経変性疾患があります。高齢者てんかんでは発作の特徴から認知症と誤診されることを述べましたが、神経変性疾患に含まれるアルツハイマー型認知症(高齢者の認知症の原因として最も多い)自体も高齢者てんかんの原因になることが知られています。
また高齢者てんかんの発症が引き金になって生じる合併症としての 「うつ症状」もあります。脳卒中を起こした後はうつ病を発症しやすく、なおてんかん発作があることで気分の落ち込みが起こりやすくなります。できるだけストレスを溜めない、溜め込ませない生活を送ることが大切です。

3. 高齢者てんかんの診断

高齢者てんかんの診断のために必要な検査は他の年代のてんかんと基本的に同じです。

①問診

診断の基本になりますが、発作前後の状況を自分では説明ができないため、家族や介護スタッフなど発作を目撃した方のご協力が必要になります。発作中の様子を主治医に伝えてもらう、あるいはスマ ートフォンの動画機能で発作の様子が記録されていれば発作型の診断に役に立ちます。また声掛けで反応があるか、体の一部の異常な動き(例えば口や手の自動症)に着目するなど、てんかんの知識をもって発作の様子を確認して頂けていれば一層助かります。

②脳波

高齢者てんかんでは1回の脳波検査によっててんかん波を見つけることができる割合が3割~7割程度と決して高くありません。
そのため繰り返し検査を受けて頂く場合があります。また脳波異常は睡眠時に見られる場合も多く、睡眠脳波や、入院を要しますがより詳細な評価のために長時間持続ビデオ脳 波モニター検査を行うこともあります。

③脳画像

特に高齢者の初発のてんかん発作の場合には、 てんかんの原因を診断するために脳の画像検査が必須となります。
MRI検査が最も適切とされております。

④脳機能

画像高齢者の場合、 神経変性疾患が原囚のてんかんがあります。 MRIなどの脳の形態画像だけでは診断が付きにくい場合(アルッハイマー型認知症など)では脳血流神経グラフィーなどの脳機能画像が参考になることもあります。

4.高齢者てんかんの治療

抗てんかん薬の効果が高く、 最初の発作から治療を開始することもあります。 理由はてんかんの原因がはっきりしている(脳卒中や神経変性疾患が明らかである)ことが多いからです。 ただし、 高齢者ゆえに既に複数の薬を使用している場合や生理的な肝臓・腎臓の機能低下があるため、 腎機能障害、 肝機能障害とともに薬の効きすぎによる副作用に注意が必要になります。また抗てんかん薬を飲むことに関して周囲の偏見や副作用への誤った理解のため服薬が不規則になり発作の抑制が不十分になる人も少なくありません。 抗てんかん薬治療による恩恵を受けつつも副作用がなるべく少なく済むよう、 主治医と相談を繰り返し、 自分の体に合った服薬調整をしてもらうことが必要です(つまり病気とも主治医とも上手に付き合うことが何よりも大切です)。

5. 高齢者てんかんと日常生活上の注意

①転倒に注意

高齢者てんかん発症の原因となった脳の病気や抗てんかん薬の副作用、 不眠などに対する睡眠薬服用など眠気やふらつきの原因を多くもってしまいがちになります。転倒では骨折などのけがで寝たきりになれば日常生活動 作 (ADL) を大きく損ないます。そのためにも体調に応じた活動、周囲からの気配り、必要に応じた環境整備を行うことが大切です。

②入浴時に注意

入浴時の発作はとても危険です。風呂場に行くときは家族に声をかける、鍵をしない、基本的にシャワーで済ませる、どうしても湯船に入りたい場合は湯量を少なくする、転倒してもけがをしにくいようにマットを敷くなどの工夫が大切です。湯船で発作が起こった時の対応としては息ができる体位をとらせ、危険を回避し、あせらず意識の回復を待って無理なくお風呂から移動されて下さい。

③スポーツ、レジャー、旅行時の注意

適度な運動によるストレス発散が発作を抑制することが知られてい ます 。ただし、発作を起こすことで大けがや命の危険が想定される ものにば注意が必要です。レジャー や旅行では非日常を楽しむ反面、抗てんかん薬の内服時間のずれ、紛失などが起こりやすいです 。また旅先で病院受診が必要になった際薬手帳や病歴ノートなどの形態を心掛けることも大切です。

④寝不足、お酒の飲みすぎに注意

睡眠不足、アルコールは複合的にてんかん発作の誘発(発作閾値の低下)に関連していると考えられてい ます。酔うとよく眠れるといわれる方は少なくないですが、お酒の飲みすぎは睡眠の質の低下など脳に対して好ましくないため、飲み過ぎを控えることは大切です。

⑤自動車の運転への注意

てんかんのある人が自動車を運転するにあたっては、2 年以内に発作の既往が一度でもあれば法律上運転はできなくな ります。また免許証の更新時にも毎回医師の診断書が必要になります 。
 (自動車運転に関しての詳細は 主治医へ相談、もしくは日 本てんかん協 会のホームページ iea- net.jp を参照し法令遵守を心掛けて下さい。)

認知症とてんかん

はじめに

認知症だけでなく、てんかんも「記憶の障害」をきたすことがあります。つまり、物忘れ症状を理由に受診された患者さんの病気の正体が“認知症ではなくてんかん”である場合があります。また認知症と診断がついている患者さんがてんかんを発症する場合もあります。物忘れ症状(記憶の障害)の原因がてんかんである場合には、抗てんかん薬で治療が可能になります。近年では認知症自体がてんかん発症のリスクになることも知られています。てんかんと認知症のそれぞれの特徴を理解し、的確な診断を行い、治療に繋げることが今後はますます求められるようになります。

物忘れ症状を引き起こすてんかんを疑うには?

脳波では“認知症に特徴的と言える異常所見”がなく、認知症そのものの診断に脳波検査は必ずしも必要ではありません。病歴、問診、知能テストならびに画像検査などから診断できることが多いからです。ただし、認知機能障害がてんかんにより生じている可能性が疑われる場合には、積極的に脳波検査を行います。どのような場合に、認知症よりも“てんかん”を疑うべきか下記に示します。

1. いい時とわるい時の差がみられる場合

ある時は記憶もしっかりしており、会話も自然に成立する一方で、別のある時には記憶力に障害がみられる場合には注意が必要になります。“いい時”と“わるい時”の差がみられるような場合、わるい時はてんかんの症状をみている場合があります。

2. 急に性格が変わったようにみえる場合、いつもと様子が違う行動をとるような場合

前述のいい時とわるい時の差は記憶力に限ったことではありません。きっかけや理由もなく急に怒り出すことなど急に性格が変わったようにみえる場合や、普段と比べ受け答えが不自然であったり、突然おかしな行動(無目的に廊下をうろうろする、普段ならしないような)をとったりすることなどがてんかんによる症状の場合があります。

こうした症状を連続してあるいは間をおいて何度も繰り返すこともあります。このような場合には、あとで聞いても覚えていないことが多くみられます。また、症状の最中や、その後しばらくの間、見かけも表情がぼんやりしていて、周囲からの呼びかけに応じられない場合があります。なかには家族でないとおかしさに気がつかないような軽微な異常や、うとうと寝ているだけにしかみえない状態のこともあり、治療を行って振り返ると発作だったと分かる場合もあります。

いいときと悪いときが変わったようにみえる場合

急に性格が変わったようにみえる場合

認知症自体もてんかんのリスクになる?

認知症の原因疾患としてアルツハイマー病が最も多く、レヴィー小体型認知症がそれに続きます。それぞれに
臨床像の特徴がありますが、これらの疾患にてんかんが合併しやすいことが知られています。

1. アルツハイマー病とてんかん

アルツハイマー病におけるてんかんの合併頻度は1.3 ‒ 6.1% といわれています。65 歳以上の一般人口でのてんかん有病率が約1% ですので、アルツハイマー病では、一般高齢者と比べててんかん発症リスクが高いといえます。アルツハイマー病では基本的に認知機能の日内変動はみられません。なおアルツハイマー病に合併するてんかんでは、意識を失う発作(焦点意識減損発作)が多いですが、体をこわばらせる発作(強直間代発作)や、体のピクツキが目立つ発作(ミオクロニー発作)もみられることがあります。

2. レヴィー小体型認知症とてんかん

レヴィー小体型認知症におけるてんかんの合併率は2.47 ~ 14.7% といわれており、アルツハイマー病と同じく一般高齢者と比べててんかん発症リスクが高いといえます。レヴィー小体型認知症では認知機能に日内変動がみられる場合があることが特徴です。眠気を感じる時間帯、特に夕暮れや夜間の中途覚醒時の幻視や、入眠中に怖い夢をみて大声を出すなどがあります。前述したようにてんかんも“変動のある認知機能障害”を起こすので注意が必要です。

また視覚の異常については、レヴィー小体型認知症の幻視と後頭葉てんかんの視覚発作の区別を行う必要があり、患者さんから丁寧に問診を行うことが大切です。レヴィー小体型認知症でみられる幻視は生々しく(小さな黒い虫がみえた、ハンガーにつるした衣服が熊にみえた、部屋に大勢の人が座っていたなど)、持続時間が長いのが特徴的です。一方で、後頭葉てんかんの視覚発作は、きらきらした光が流れてみえる症状(一次視覚野の症状)、物が歪んでみえる変形視(高次の視覚野の症状)などが典型的です。

おわりに

臨床において、認知症とてんかんは似た症状を示し、かつ併存している場合があります。ご家族や介護者となる方がこれらの事実や症状の特徴を知っていると、実際に症状に直面した際に大事な情報を多く収集できることに繋がります。診察の場でこうした重要な情報を的確に伝えることが何よりも大切で、認知症であれてんかんであれ、より早期で確実な診断に大きな助けになります。

てんかんと精神症状

精神症状とは、次のようなものがあたります。

精神症状の原因

抗うつ状態

いろいろな原因から生じる精神症状のなかでも、抑うつ状態は最も多い合併症です。抑うつ状態を抱えている人はもしかするともっといるかもしれません。
下記にあるいくつかの質問に答えてみてください。抑うつ状態を自分で知ることができます。この得点が高い人は主治医に相談してみてください。薬物調整、有益なアドバイスや情報に繋がります。

以下の質問票は、自分でうつ病の可能性があるかを評価できるように作成されました。この質問にすべて回答すると、点数が出るようになっています。
今日をふくめて最近 2 週間のあなたの状態をもっともよく表している項目を選択してください。

合計得点が13 点以上になった方は抑うつ状態かもしれません。主治医に相談してください。点数が少ない方でも苦痛が大きい方は相談してみてください。

心因性発作

てんかん発作に似た症状が出ている方でも、発作症状や脳波などの検査でてんかんの特徴がみられないものは心因性発作かもしれません。
ストレスによって感覚が過敏になっていることが関連しているかもしれません。ストレスそのものを減らすか、ストレスへの対処能力をつけるかで発作が減っていきます。